山 本 桜 童 句

木の葉髪酒絶つ術を失へり

いわし雲もっとも遠き己れの位置

ひろしまの日が来る蟻が影を曳き

しゃべらねば心あやふし冷奴

酒がまわりし重い眼と口雪降れり

ひらひらと空がおりくる犬ふぐり

酒なくて秋冷の鼻重きかな

なめくじり錢ためる術知らでもよい

雪やこんこんかすかに胎動ありと言ふ

いわし雲鶏のあらそひすぐ終る

仕舞風呂の妻に水汲むへちま椚

どんど盛ん人のうしろに暮れ迫る

すだれ越しにわが痩身を見られたり

大寒や少女はたらく髪束ね

初笑その中に顔置いてゐる

空っ風貨車一つなき貨物駅

月見草ひらくと暗きもの負へり

妻の背にいつも兒は居り日脚伸ぶ

壺の深さに暗さたまれり蝉時雨

目刺にがし酒に不平を泳がせて

   母らしきが事故に遭うとの報せあり

 母であるな總身汗し駈けつづく

     病 院 に て  

  たしかに母ぞかひながはらふ汗もなし

 母は涼しく眼を閉じてゐる別れかな